この数年間の過酷な時期を経て、今日の欧州の自家用車市場は、複雑かつダイナミックな状況にあります。メーカー各社は新型コロナウイルスの混乱、半導体不足、地政学的な問題といった課題に直面する一方で、世界的な電動化の進展やCO₂排出規制による不確実な状況に対しても対応を迫られています。
過去7年間の価格トレンドをマクロレベルで詳細に分析した結果、市場の現状、考慮すべきリスク、現在の市場の潜在的な機会について、興味深い視点が得られました。ドイツ、フランス、イタリア、英国を合算した一つの市場として捉え、セグメント別の動向に焦点を当てながら、急速かつ大規模な変化に直面する一般消費者にどのような影響が及ぶのかを明らかにしています。
セグメント別シェア
この7年間、欧州の自家用車市場全体をけん引してきたのは、全体の約60%を占める4つの主要セグメント(Bセグメント、B-SUV、C1セグメント、C1-SUV)でした(図1)。
上記のセグメントは、その販売台数のみならず、自動車業界における最大の変革の中軸を担っていた点からも、極めて重要な意味を持ちます。SUVブームによってボディタイプの嗜好は変わり、従来のステーションワゴンやセダンはその存在感を失いつつあります。同時に、ディーゼル車の衰退と急速な電動化に伴い、パワートレインの構成と製造コストが抜本的に変わりました。
こうした転換はいずれも、分析対象となった4つの国とセグメントの価格設定に異なる影響を及ぼしており、今回の分析では、これに伴う複雑な価格ダイナミクスを検証しました。
セグメント別・自家用車登録台数シェア
累積市場全体(ドイツ、フランス、イタリア、英国)に占める割合(%)

前年との比較
価格上昇を前年比で測定した場合、2020-2022年の期間は、4セグメントの大半で全体的な上昇が最も高く、それぞれがピークに達しました(図2)。
- B-Small:販売台数が最も多いこのセグメントは2020年にピークに達しており、2019年比で10%増、金額にして約1,800ユーロ(=約31万1,000円)増と、この年に最高の伸びを示しました。パーセンテージベースでの価格上昇率は、2018年から2019年の数字(3%増)の3倍にあたります。2020年には、他の調査対象セグメントも前年比で高い伸びを示したものの、その上昇率はB-スモールの結果に並ぶものではありませんでした。
日本車メーカーも同様に、B-Small・セグメントは2021年に前年比11.6%の大幅増を示しました。 - C1-Lower Medium:2021年には、2020年比で12%増、金額にして約3,500ユーロ(=約60万6,000円)増と、4セグメント中で最高のピークに達しており、前年比の上昇率はセグメント内の過去最高を記録しました。これは調査対象となった7年間、4セグメント全体を通じても最大の上昇であり、それ以前の2年間の価格上昇の合算分にも相当します。金額ベースでは、過去2年間の価格上昇の合算は3,300ユーロ(=約57万1,000円)となり、2021年の数字よりも低くなります。その後の数年間において、同セグメントの年間上昇率は4%を超えていません。
2021年には欧州で顕著な価格上昇が見られたにも関わらず、日本車メーカーの上昇率は比較的低く、前年比2.4%増にとどまりました。 - C1-SUV:2022年には、2021年比で10%増、金額にして約3,100ユーロ(=約53万6,000円)増と、4セグメント中で最高の伸びを示し、セグメント内のピークを記録しました。これは、それ以前の4%増・7%増に続く3年連続での前年比の価格上昇となり、調査対象期間中のセグメント別の価格上昇では、最後の明確なピークとなりました。
- B-SUV:上記の3年間で明白なピークは存在せず、価格上昇はパーセンテージベースで6~7%と一定しています。金額ベースでは、年間1,500ユーロ(=約26万円)増から2,000ユーロ(=約34万6,000円)増へと漸増しています。一方、日本では9.5%の上昇が見られました。
セグメント別・平均小売価格の変動
前年比(%)

トレンド分析
2018年と2024年における価格差から、いくつかの注目すべき傾向が明らかになっています。ドイツ、フランス、イタリア、英国の平均小売価格は、Bセグメントが34%増、C1セグメントは36%増と急激な上昇を見せました(図3)。
金額ベースでは、C1-SUVが約1万100ユーロ(=約175万円)と最も急激な伸びを示したほか、Bセグメントの小型車は5,900ユーロ(=約102万円)と上昇幅は最小になりました。一方、データによると、すべてのセグメントは著しく類似した動向を示しており、価格上昇が最も急激だったのは、2020年から2022年の期間でした。このように全セグメントで並行的な動きが見られることから、今回の前例のない価格上昇をけん引しているのは、セグメント固有の要因ではなく、業界全体のコスト圧力と利益保全策であることが示唆されます。
セグメント別・平均小売価格

日本車メーカーの分析
B-Small・セグメントにおける日本車と非日本車のメーカーの平均価格は2019年には拮抗していました。しかし、日本車メーカーはその後により急激な上昇トレンドを示しており、2024年には非日本車メーカーとの価格差は約1,900ユーロ(=約32万9,000円)へと拡大しました。B-SUVの価格差は、約1,600ユーロ(=約27万7,000円)に達しました。
これとは対照的に、Cセグメントでの日本車メーカーの価格上昇は比較的緩やかで、2020年から2024年の期間でC1-SUVの価格は18%上昇しました。
マクロセグメント/ボディクラスター内の価格差
各セグメントにおけるSUVと従来型ボディスタイルの価格差からは、興味深い動向がうかがえます。SUVの方が高価格になるという予想のベースラインを出発点として、BとC1の両方のセグメントの価格差は、分析期間中に著しく変動しています。
2024年には、パーセンテージベースの価格差は2020年以前の水準にほぼ戻りました。しかし、両セグメントとも2020-2022年には「縮小と拡大」の顕著なパターンを示しました。価格差は最初に縮小して、その後再び拡大しましたが、それぞれには明確な特性が見られました。
図4からは以下の動向が読み取れます。
- Bセグメント:SUVの従来型モデルに対する価格の優位性(プレミアム)は、27~33%の間で推移しています。この価格差は予測可能なパターンを示しており、2020-2021年は縮小(2021年に最小値を記録)し、2024年には2018-2019年の水準まで拡大しました。しかし、価格差はパーセンテージベースで過去の通常値に戻ったものの、金額ベースでは異なる状況を示しています。2024年の段階で、B-SUVはBセグメント小型車に比べて7,700ユーロ(=約133万円)高いのに対し、2018年の価格差は5,700ユーロ(=約98万7,000円)に過ぎませんでした。注目すべき点として、Bセグメントの価格差は、C1の差よりも大きく、かつ一貫しています。
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C1セグメント:Bセグメントと比べてSUVの優位性は大幅に小さく、わずか9~-1%の範囲に収まっています。驚くべきことに、短期間ではあるものの2021年には優位性が完全消滅しました。Bセグメントの動向が比較的安定しているのに対し、C1では10パーセンテージポイントというはるかに大きな振れ幅が示されています。Bセグメントと同様、パーセンテージベースの価格差は2020年以前の水準に戻っているものの、金額ベースの価格差は拡大しています。C1-SUVは現在、C1の従来型モデルよりも3,300ユーロ(=約57万1,000円)高く、価格差は2018年の2,500ユーロ(=約43万3,000円)から拡大しています。
ボディタイプ別のセグメントの比較は以下の通りです(図5)。
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SUVカテゴリー:C1-SUVはB-SUVに対して19~24%の優位性を維持しています。この差は2019-2021年に縮小しましたが、その後は2020年以前の水準を超えて拡大しています。金額ベースでの増加は顕著です。C1-SUVは現在、B-SUVとの比較で7,400ユーロ(=約128万円)高く、価格差は2018年の5,200ユーロ(=約90万円)から拡大しています。
- 従来のボディスタイル:セグメントの価格差はさらに大きく安定しており、47~54%の範囲となっています。価格差は2018年の8,500ユーロ(=約147万円)から2024年には1万1,800ユーロ(=約204万円)へと拡大しています
セグメント別・平均小売価格(ユーロ)と価格差(%)
各セグメントのSUVと非SUVの比較

各セグメントのSUVと非SUVの価格差(%)

各ボディクラスターのセグメントを横断した価格差(%)

上記の分析は、自動車メーカーにとって重要な知見を明らかにするものです。パーセンテージベースの価格の優位性はパンデミック前の水準に戻ったものの、セグメント間・ボディタイプ間のコスト障壁は恒久的に上昇しました。これにより、従来型のセグメントの境界が圧迫されるという新たな競争構造が生まれ、顧客の移行動向やメーカーのポジショニング戦略の再構築につながる可能性があります。
価格移行現象
分析結果から、注目すべき市場動向が明らかになりました。現在のコンパクトモデルの価格は、ほんの数年前の中型車の価格と同水準になっています。このような「価格移行」効果は、インフレや外部要因が欧州市場の構造を根本的に変化させたことを示しています。
パターンは明確です。価格はすべてのセグメントで上昇しており、下位モデルは近年の上位モデルが占めていた価格帯に到達しています。特に注目すべき点として、現在のBセグメントの車両は、2018-2019年のBセグメントSUVと同価格帯にある一方、C1のモデルは2021-2022年のC1-SUVの価格水準に達しています(図6)。
主な分析結果:
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Bセグメント:2018-19年のSUV価格に「追いついた」状態であり、移行期間は5年です。
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C1セグメント:2021-22年のSUV価格に到達しており、移行期間はわずか2年です。
データから分かる重要な知見として、当初の価格差が大きいほど、移行期間は長くなります。BセグメントはSUVの優位性が27~33%と非常に大きく、価格の収束は5年を要しました。C1セグメントの価格差は最小(9~-1%)だったため、わずか2年で収束しました。
ボディクラスター内の平均小売価格の移行

SUVの価格は、サイズのカテゴリーを超えて変動しています(図7)。2024年のB-SUVの価格は2020-2021年のC1-SUVと同水準になりました。小型SUVは大型SUVの価格に約3~4年で追いついており、2020年に存在した5,000ユーロの価格差は事実上解消されました。B-SmallとC1-Lower Mediumについては、価格差が当初より大きかったこともあり、非SUV車種ではこの期間に同程度の価格収束は発生しませんでした。
ボディクラスター内の平均小売価格の移行

2018年から2024年の価格差には、以下の通り顕著な傾向が確認されます。
- セグメント別では、BとCの価格差は約34%拡大しました。
- B-SmallとB-SUVの価格差は、5,700ユーロ(=約98万7,000円)から7,700ユーロ(=約133万円)に拡大しました。
- C1-Lower MediumとC1-SUVの価格差は、2,500ユーロ(=約43万3,000円)から3,300ユーロ(=約57万1,000円)に拡大しました。
- ボディクラスター別では、BとC1の価格差は40%拡大しました。
- B-SUVとC1-SUVの価格差は、5,200ユーロ(=約90万円)から7,400ユーロ(=約128万円)に拡大しました。
- B-SmallとC1-Lower Mediumの価格差は、8,500ユーロ(=約147万円)から1万1,600ユーロ(=約201万円)に拡大しました。
自動車メーカーにとっての意味
本分析は、調査対象のセグメント内で最廉価車と最高級車の価格差が拡大していることを示しています(2025年通期のデータは現在調査中)。
これらの調査結果は、単純な価格比較にとどまらず、市場の吸収パターンや購買余力の動向についてより深い洞察を提供します。これらは広範なトレンドの影響を理解する基盤となり、さらなる市場分析を可能にします。
この4市場の見解における各国の顕著な差異を踏まえた上で、得られた知見を活用することで、購買行動(代替的モビリティ・ソリューション、ファイナンス/キャッシュ、所有/サブスクリプションと車両の選択(セグメントとタイプの嗜好)という2つの重要な側面で潜在顧客の影響を評価することが可能です。
詳細については、JATOの「 車両価格の上昇が欧州の自動車業界に及ぼす影響 」レポートをご覧ください。
JATOができること
JATOは自動車市場に関する包括的なインテリジェンスを提供します。JATOの専門アナリストは、割引価格や実売価格を含む実環境の取引データを活用し、より深い購買余力のトレンドを明らかにするカスタマイズされた洞察を提供します。JATO Advisoryは、自動車メーカーが目標に合致したデータ駆動型の意思決定を行うことを可能にし、複雑で急速に変化する環境において、競争力を維持できるよう支援します。詳細は、JATO Advisoryをご覧ください。
調査方法について
対象となるデータベースは、「JATO Incentives Navigator」を通じて取得したJATO Model Mixです。2025年については、分析の実行時点で入手可能なデータが使用されており、完全なデータについては、通年の終了を待つ必要があります。
セグメントの定義は、標準的なJATO Segmentationに準拠しています。具体的には、C1セグメントには高級車メーカーは含まれません。
本レポートの提供データは、対象地域内の個人顧客名義で登録された車両のメーカー希望小売価格(MSRP)を指します。本レポートに含まれる平均価格は、販売台数で加重平均されています。そのため、本レポートに記載された自動車の価格や変化/トレンド/差は、実際の定価変動だけでなく、自動車の販売台数の集中/移行/シェアなどによる構成比の影響も反映しています。複数国の分析を行うにあたり、英国の金額はユーロに換算されています。
※使用為替レート: 1ユーロ=173.13円。円換算額は1万円未満を四捨五入しています。
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