市場の電動化戦略におけるBEVの停滞とHEVの優位性


日本政府は脱炭素社会の実現に向け、補助金制度の拡充や充電インフラ整備の支援、多様な税制面での優遇策などの政策的な後押しを強化し、新エネルギー車(NEV)の導入促進 に注力している。しかし、現在の市場動向を見ると、消費者の選好は依然としてHEVに傾いており、政策の方向性に対し、BEVの普及は期待ほど進んでいない。

 

パワートレイン別・日本の自動車登録台数の推移

 

日本は世界第4位の自動車市場である。その特徴の一つとして、販売台数における日系ブランドの比率が2025年上期において約93.9%に達するなど、国内メーカーの存在感が非常に高い事が挙げられる。この高い日系ブランド比率は、トヨタ、ホンダ、スズキ、ニッサンといった主要メーカーに支えられており、電動化の進展においても中心的な役割を果たしている。

 

 

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2025年上半期 メーカー別・自動車登録シェア

 

 

ハイブリッド車の台頭と内燃機関車の後退

 

内燃機関(ICE)車は、特にHEVの躍進により2023年に初めて乗用車全体の半数を下回り、2024年には42.3%のシェアを記録した。2025年上期には44.7%まで回復したものの、依然電動車の台数が過半数を占める状況となっている。

xEV(HEV、MHEV、PHEV、BEVを含む電動車)の個々の販売比率を見ると、2019年にはHEVが21.7%、BEVはわずか0.5%にとどまっていた。その後、2023年にはBEV比率が2.2%まで拡大したが、2025年上期には再び1.3%に低下しており、BEVの普及は依然として限定的である。

一方、HEVは2024年に35.6%まで比率を伸ばした。その後2025年上期には33.8%まで落ち着いたものの、販売台数では前年同期比2%増を達成し、堅調に推移している。特に日系ブランドによる技術的優位性と価格競争力が需要を支えており、2025年上期の市場全体でのHEV販売比率はそれぞれ、トヨタ21%、ホンダ6%、ニッサン4.5%である。

 

BEVの投入拡大と価格構造の二極化

 

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輸入車・国産車別の自動車登録台数推移とモデル数

 

BEVの市場における販売モデル数は、2019年の10モデルから2025年には61モデルへと増加している。しかし、そのうち日系ブランドはわずか10モデルにとどまり、残りの51モデルは輸入ブランドで、BEV市場における輸入車の存在感の高さを示している。

販売実績においは、特に2022年に投入された軽BEV(ニッサン サクラ、ミツビシ ekクロスEV)が市場のけん引役となっており、2021年には59%まで減少していた日系ブランドのBEV比率を75%まで上昇させた。2025年上期においては再び輸入BEVがシェアを拡大し、国産車はトーンダウンしたものの軽BEV車両は、価格とサイズの両面で日本の消費者ニーズに合致しており、近年におけるBEV普及の実質的な起点となっている。

また、価格面での日系ブランド車と輸入ブランドの差は顕著で、2025  年上期時点での輸入BEVの販売台数を加味した加重平均価格は約737万円、日系BEVは軽自動車を中心に約353万円と大きな価格差がある。輸入車は高価格・高性能・高付加価値を志向しているため、特にラグジュアリーブランドにおける固定のロイヤルカスタマーからの支持も考慮される。一方日系BEVは実用性と価格競争力を重視した戦略を採っており、両者の棲み分けが明確になっている。

 

軽BEVの可能性

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2025年上半期 セグメント別・自動車登録シェア(市場全体)

 

軽自動車は、日本独自の規格に基づく小型車両セグメントであり、2025年上半期においては乗用車全体の約33.4%  を占めるなど、国内自動車市場において重要な役割を果たしている。特に地方部においては、価格の手頃さや維持費の低さが支持され、日常的な移動手段やセカンドカーとして広く普及している。

過去6年間の市場動向を分析すると、軽自動車のシェアは32%〜36%の範囲で安定的に推移しており、全体的な市場の変動にもかかわらず、一定の需要が継続的に存在していることが確認できる。このことは、軽自動車が日本の交通・生活環境に適合したセグメントとして定着していることを示しており、今後の電動化戦略においても重要な検討対象となる可能性がある。

 

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平均航続距離の推移:軽自動車と普通車の比較

 

軽セグメントにおけるBEV車は、特有のニーズに応じた戦略的な展開が期待されている。特に、航続距離や充電インフラの制約を「近距離移動」に特化することで緩和し、価格面でもスペックを抑えることで消費者への導入ハードルを下げる役割を果たしている。

また、平均航続距離に注目すると、乗用車(軽自動車以外)においては、継続的な改善が見られる一方で、軽BEVモデルは、ニッサン サクラ やミツビシeK クロス EVの市場投入後も、ほぼ横ばいで推移している。2022年以降、軽BEVの登場はBEV市場の活性化に寄与し、2023年にBEV全体で前年比53%増の88,099台を達成したが、その後は減少傾向にあり今後このセグメントの動向が注視される。

 

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2025年上半期 セグメント別・BEVの平均航続距離と価格

 

ニッサン サクラと ミツビシ eK クロスEVは2022年に発売され、航続距離は180kmである。 軽自動車以外のBEVの加重平均航続距離と比較すると約3倍の差があり、価格では約400万円の大きな差がある。

また、2025年9月12日、ホンダは新型軽BEVである N-ONE e:の発売を開始した。航続距離は295km以上、価格は269万円からとされており、今後の軽BEVセグメントにおける競争力の向上と販売拡大の契機になることが期待されている。

 

EVの魅力と価格優位性

BEVの将来的な浸透が模索される一方で、現時点ではHEVが最も現実的な選択肢として高い支持を得ている。特に価格と燃費の両面で強いアドバンテージがある。


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2025年上半期 パワートレイン別・モデル数

 

2025年上半期に、乗用車全体で販売台数を加味した新車の加重平均価格は、約329万円であった。また、メーカー希望小売価格が409万円以下の価格帯に約80%、580万円以下に約90%が収まっている。しかしBEVに限定すると、409万円以下で価格が設定されているモデルはわずか6車種のみで、うち2車種が軽自動車、3車種が輸入車(ヒョンデ コナ、インスター 、BYD ドルフィン)である。

対してHEVは、409万円以下でメーカー希望小売価格が設定されているモデルが34車種存在し、トヨタ、ホンダ、ニッサンなどの日系ブランドから幅広く展開されている。 同じセグメントにおける価格はICEよりも高く設定されているものの、燃費性能や装備の充実度、減税分などを考慮すると、HEVのコストパフォーマンスの評価は高い。また、豊富な車種を展開し、歴史的に支持されてきた国産ブランドによって強固に支えられているため、電動車においてHEVは、日本のユーザーにとって最も身近な電動 パワートレインの選択肢となっている。

 

政府の補助金政策と消費者行動

 

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政府補助金の上限額と販売動向

 

日本政府は、カーボンニュートラルを実現するため、クリーンエネルギー車(BEV/PHEV)に対して補助金を支給している。CEV補助金は、2020年には最大40万円であったが、2022年には最大85万円へと拡充され、2025年には加算措置を含め最大90万円に達している。軽EVに対しては最大57.4万円の補助が適用されており、東京都などでは自治体による補助金と併用することで、実質的な購入負担がさらに大幅に軽減される仕組みが整備されている。

例として、ニッサン サクラにおいては、メーカー希望小売価格254万円(エントリーグレード)に対し、約22%に該当する57.4万円が支給され、さらに税金の優遇措置も適用される。そのため、特に軽EVの普及において、消費者の選択肢をガソリン車との価格差の緩和によって、広げる効果が高い。しかしながら、BEVの普及という観点では、補助金による直接的な押し上げは限定的であり、消費者の選好やインフラ整備の遅れなど、構造的な課題が依然として存在している。

 

税金のベネフィット

 

税制優遇額の算定例(RAV4)

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* 計算の内訳: CEV補助金額+エコカー減税分+環境性能割減免額

 

日本政府は、補助金制度に加え、税制面でもさまざまな優遇措置を講じてきた。代表的な制度としては、エコカー減税が挙げられる。これは、環境性能に応じて環境性能割や重量税を軽減するものであり、当初は暫定的に導入されたが、毎年延長され、内容を更新しながら現在まで継続的に適用されている。

このような税制上のベネフィットは、消費者の初期負担および車検時の負担を軽減するだけでなく、電動車の購入意欲を高める要因として機能している。

 

最後に

 

総じて、日本の電動化は政策的にはBEVを推進しているものの、実際はHEVが堅調に推移している。軽EVなどの新たなセグメントは、将来的なBEV普及の鍵となる可能性を秘めており、補助金制度やインフラ整備といった外部環境の整備、BEVの価格帯の多様化と、ユーザーのライフスタイルに即した、幅広い商品提案に今後の成長可能性があると考えられる。



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