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12月 15, 2020 by Terutaka Kawamura

電気自動車市場 ホワイトペーパー 2020年

電気自動車の覇権をかけて:中国市場から学ぶ教訓とは

 

このホワイトペーパーは、JATOの保有するデータと、専門家チームから得た独自の洞察によって、中国の電気自動車(EV)市場の現状を世界市場と比較して明らかにし、中国企業のこれまでの取り組みと成功を探求することを目的としている。

中国で補助金が削減されたことを受けて、世界の電気自動車市場が変わっていく中、このレポートでは中国の自動車会社の世界を視野に入れた野望と、アジア以外の地域で強力な存在感を確立しようする中での世界市場への潜在的な影響も考察する。

最後に、中国の成功から、欧州や米国が何を学ぶことができるのかを検討する。

01 背景

 

自動車の電動化競争において、中国は目標を高く掲げている。世界の自動車市場において優位な立場になる最短のルートは電気自動車にあると気付き、中国の自動車会社は電気自動車市場で強い立場を確保するため、素早く動いたのだ。

成長を続ける電気自動車市場の将来については、世界でも最大の自動車会社たちが心を悩ましていることは、ほとんど疑いの余地がないだろう。中国はすでに地位を確立し始めているが、政府の補助金が削減され始めたことでの冷え込みも見られ、競争はまだ終わっていない。

地域力学の急速な転換が意味するのは、欧州を中心とした他の地域で、政府が新車購入に向けて消費者へ甘い餌を与えることで、初めて電気自動車市場が成長を見せ始めているということだ。欧州は中国の後塵を拝しているものの、世界ですでに第2位の市場になっており、3番目の北米市場とは大きく離している。そのため、欧州は近い将来中国市場を上回る可能性が高くなってきているのだ。

 

新型コロナウイルス

新型コロナウイルスの危機は、経済的な苦境から、苦戦している自動車会社への圧力を下げるために政府が燃費基準を緩和したり、電気自動車のための補助金を削減するなどして、他の場所で使えるよう資金を確保する可能性があると懸念されている。もっともこれまでのところ、そういったことは起きていないが。中国は購入時の補助金を今年打ち切る予定だったが、金額をわずかに削減し、2022年まで延期した。

感染拡大が世界経済に大きな影響を与えている中でも、電気自動車の売上は底堅い。20208月までの年初来累計販売台数は、昨年同期比2%減となっているが、世界全体での販売台数が23%減となっていることと比較すればわずかなものだ。

そして、欧州の自動車会社がこのような問いかけをするのに極めて重要な時を迎えている。世界で最も大きく、最も成功した電気自動車市場から、一体どんなことが学べるだろうか?

02 中国の規制、奨励金と消費者の需要

奨励金と政府による手厚い介入こそが、中国の電気自動車市場が繁栄したことに重大な役割を果たしてきた。スタートアップへの投資や消費者のための補助金から、強固な充電設備ネットワークの構築に至るまで、過剰なほど介入することで、消費者と事業体の信頼感を高め、電気自動車の普及を加速させてきた。

しかしながら、政府による補助金は2022年に終了することになっているため、電気自動車の需要は初めて鈍化し始めており、補助金が段階的に廃止されてしまえば、より一層落ち込むことになるだろう。ただそれにもかかわらず、中国での電気自動車市場は今のところ拡大を続けており、多くの中国の自動車会社が別の地域への進出を狙っている。これまでの成功が政府による介入だけによるものなのかは、これから見えてくるだろう。

2016年以降、中国は世界で最も早く、最も大きな電気自動車市場へ成長した。多くの要因が中国の優位性を高める原動力となったが、わずか10年で世界最大の電気自動車市場を生み出したのは、間違いなく報奨金政策の組み合わせによるものだろう。

中国政府は、自動車業界で世界的なリーダーになるためには、電気自動車にこそ機会があるのだと早くから気付いていたため、電動化競争に率先して参加したのだ。欧米の競合に先駆けて、電気自動車市場で中心に立つために。

政府は国家レベルで、電気自動車が経済成長の柱になる可能性があると認識していたため、事業者も消費者も巨額の投資と補助金を与えられてきた。自動車会社への補助金の給付は中国企業のみではないが、根本的な違いとしては、輸入された車両は補助金を受けることができず、関税がかけられることになる。

国内に高品質な自動車会社を育み、国内の供給エコシステムを確立するための揺るぎない献身の元、政府は電気自動車スタートアップや部品製造会社から、充電設備ネットワーク構築まで、自信と需要を満たす名目で行ってきたのだ。

このような政治に後押しされたアプローチにより、業界を活気づけようとしてきたのには、以下2つの重要な理由がある:

  1. 中国の電気自動車市場を早期に成長させるため
  2. 国際的優位性を確立するため
色々な意味で、このアプローチは大きな成功を収めた。

このことは、中国の自動車会社が海外市場の拡大に意識を向けており、欧米の企業がアジア市場で生かせるような自動車技術とコネクティビティーの傾向がないか探していることが典型的に示している。

印象的な成長を記録していながら、昨年に中国の電気自動車市場は落ち着きを見せており、2025年までに新車の25%を新エネルギー車(NEV)にするという野心的な目標とはまだ少し距離がある。

 

この減速の理由は、政府による過去数年に渡る補助金の減額のためである。欧州の電気自動車市場はますます有力になってきているが、この停滞はひとつの疑問を生む。中国の成功は、政府による手厚い介入によってのみ作り出されたのだろうか?

 

販売データが減速の兆しを示しているにもかかわらず、補助金が一度完全に無くなったとしても、中国の電気自動車市場は競合国をはるかに凌駕するだろう。実際、中国において電気自動車は138モデルが販売されているが、欧州では60モデル、北米では17モデルだ。

中国の規制と報奨金政策が、長期的な成功においてどれだけ影響を与えたのかを知るのは時間の問題だ。しかし、今のところ中国政府は電気自動車市場がこれからも成功を続けられるよう努力しているように見える。税控除と補助金の延長と、2023年までの新エネルギー車(NEV)に対する新しいクレジットスキームを発表したことを受け、これからも中国の電気自動車市場は成長を続ける可能性が高い。

 

03 世界は中国から何を学べるか

中国が世界の電気自動車市場で急速に力を付けることができたのには、決定的な2つの要因がある。1つ目は、500億ドルと推定される巨額の投資を行ったこと。2つ目は、強力な干渉と中央集権的な戦略の組み合わせにより、製造業を支えるだけでなく、国内にまんべんなく行きわたるインフラ建設計画を実行したことだ。

しかしこの計画の一番の核心には、今日の電気自動車の優勢が、明日の中国の世界的な覇権つながるという、根深い執念がある。

他の市場では、中国式のやり方から何を学べるだろうか。

結果指向の介入

中国が電気自動車市場で優位に立つことができたのは、究極的には政府による手厚い介入のおかげである。10年早送りして、中国の電気自動車市場は世界最大になった。そして結果がすべてを物語っている。JATOのデータによると、2018年には年次として最大となる、70万台以上が販売された。

電気自動車を推奨するだけでなく、消費者にガソリン車とディーゼル車をやめさせるために情け容赦ない手法が取られた。良い例が上海でのナンバープレート交付だ。ガソリン車では1台あたり13,000ドルかかるが、電気自動車では無料である。このようにして、電気自動車の利点をいとも簡単に生み出し、経済上の大きな刺激を生み出している。

中国の報奨金政策と規制について詳しく見ると、初めから中国は勝つつもりでおり、その野望を達成するまでは絶対に立ち止まらないであろうことは明らかだ。他国の政府の介入と比較すると、欧州や北米で見られるような、軽い介入ではそれほど成功していない。例として、中国が規模でも速度でも優位になるため、消費者に大幅な値引きを提供してきたが、北米ではその代わりに販売された車両に対して、自動車会社に限定的な補助金を与えたのみであったため、結局遅いスピードでしか進まなかった。

単純な事実として、電気自動車が高級車の価格帯であり続ける限り、消費者にとって乗り換えるのに大きな動機は生まれない。つまり欧米の企業は、価格帯を手に入れやすいレベルにするための、新しく革新的な方法を考えなくてはならないのだ。

集権的計画を活用する

中央集権的計画は、中国が電気自動車の受け入れに成功するために不可欠であり、導入を支えるためのインフラ整備を効果的に配備することをも可能にした。大局的に見ると、国際エネルギー機関(IEA)の発表している“Global EV Outlook 2020”によれば、世界には低速と急速の公共充電スポットは862,118カ所あるが、世界最大の自動車市場である中国がその内60%のシェアを握っている。

英国を含むいくつかの国の政府が、早くて2030年にガソリン車とディーゼル車の新車販売をやめることを発表している一方で、その野望を裏付けるはっきりとした計画がまだないため、それが最終的には消費者の購買欲にも連鎖しそうだ。まだ電気自動車市場が成熟していない国の政府が今必要なのは、消費者がなるべくシンプルに購買意欲を持てるような最適な環境をつくり、成長を促すための、より中央集権的な計画である。

普及価格の電気自動車をつくることを中心に据える

中国は、安価に製造することを重視したことで、急速に成長することができた。欧州がラグジュアリーな電気自動車を推している一方、中国では廉価なモデルをつくることに集中してきた。その結果、多くの台数を売り上げ、消費者を取り込み、産業を堅実に成長させることができた。欧州や米国はミッドサイズの車両に力を入れてきたのに対し、中国はSUVの電気自動車でも先行している。

いくつかの例外はあるものの、欧州や米国の電気自動車は上位セグメントに集中する傾向がある。

JATOのデータから、中国、欧州、米国で売られている価格には、大きな差があることが分かる。2019年の補助金等を抜いた平均車両価格は、欧州で58%、米国で52%、それぞれ中国よりも高額だった。電気自動車の普及率を説明するに当たり、このことは大きな違いだ。

データが勝負の流れを変える

多くの人が車両を基本的にはモバイルデータのプラットフォームと捉えているため、中国の自動車会社は、データがどのように市場を変えていくか、いち早く理解していた。スマートフォン世代の気風とも一致し、中国企業は伝統的な自動車の役割についてほとんど考えることなく、データやテクノロジーの専門技術の方へ舵を切った。このことは今後数年以内に、自動車会社が自動車に価値を見出す分野になるだろう。

データを利用することで消費者を細かいレベルで理解することができ、その延長で対象となる顧客を絞り込むことができる。素早いデータ収集と分析により、顧客の好みを深く考察することで、消費者の行動を予測するためのロバストモデルを構築し、さらには販売を伸ばしていくことができるのだ。

 

04 異なる消費者、異なるレベルでの成功

政府の介入と製造の選択に加え、消費者の行動も電気自動車の成功に大きく関わっている。この違いは中国と欧州の顧客とで差が見える。

消費者の姿勢は、行動を比較したときに、市場によってかなり異なる。適例は、欧州と中国の消費者の違いだ。電気自動車に対しての考えは特に異なっており、顧客の特性が各市場の様相をどのように形成するかをこの章では見ていく。

中国は新技術を早く採用した

中国は世界の電気自動車市場の半分を占めるまでになっている。主として政府の規制と介入によるためであるが、中国の消費者の姿勢も大きな役割を果たしている。

中国社会での技術の興隆は、過去10年間で驚異的だった。例を挙げると、世界のスマートフォン販売の25%以上は中国で生み出されている。

テクノロジー好きは電話の領域を超えて広がり、中国の消費者は今や新技術のことをよく知っており、デジタル分野で最先端の体験をすることを強く望んでいる。

そのため、中国の消費者が電気自動車に対してもっと多くのデジタル技術を望んでいることは驚きではないし、現在に至るまでその要望は高まっている。コネクティビティーも鍵を握っており、例としてドイツの18%に対し、中国では3分の1の消費者が車載の通信機能が重要だと考えている。大多数の中国人は車内で利用できるサービスが必要だと答えており、半数の人はスマートフォンのアプリと車のサービスがシームレスにつながることを望んでいる。

スマートフォンのつながるという性質は、アプリ間で常に情報を共有するが、中国の日常生活にしっかりと染み込んでおり、欧州の消費者と比べて、情報共有に対しての懸念はそれほどない。中国人がデータに対して寛大であるおかげで、企業は消費者の感じ方、購入や検索の傾向、そして好みまでをより深く分析することができる。電気自動車の製造にもこのことは生かされており、中国で最も売れている新型電気自動車のBYD 秦 (Qin Proにも見られる。最新の人工知能を搭載したプラットフォームと自動運転技術を組み合わせ、若い世代の好みに合わせてつくられた時流に乗ったハイテク車両となっている。

欧州はこれまでの習慣に支配されている

先ほど述べた中国の消費者の姿勢とは異なり、欧州の顧客は電気自動車のこととなると性能に対し不安を感じ、自分たちがすでに知っているものへ固執する傾向が強い。例を挙げると、最近のレポートによれば、欧州での電気自動車の普及はいくつかの地域では、十分な数の充電設備がなかったことで妨げられた。2025年までに十分とされるだけの公共充電設備をつくるためには、概算して18億ドルの投資が必要とされている。

しかしながら、充電設備が足りないことが、欧州の消費者にとって一番の心配ごとであるということは、次に購入する車種として電気自動車を現実的な選択肢として見ており、所有することが実用的なのかどうか考え始めているということだ。電気自動車の航続距離に対する不安は、これまで消費者が購入に後ろめたさを感じる要因であったが、技術が進歩するにつれ、このことも変わり始めている。

関連して、欧州は2019年、他の地域よりも電気自動車の販売台数を伸ばしている。近年起こっている気候変動に対しての不安の高まりが、この成長に寄与した。環境に配慮した購入習慣に見られるように、欧州の消費者は持続可能な社会を目指しており、自動車の購入も例外ではないのだ。

欧州の多くの国は気候変動に対して目標を定めている。英国は2035年までに公害車両を禁止し、2050年までに二酸化酸素の排出量を実質0にすることを発表しており、ドイツでは2020年末までに排出量を40%削減することを計画している。このように、政府は欧州の消費者を刺激する政策をいくつも打ち出すことで、電気自動車への転換を促しているのだ。ドイツでは政府が、45,000ドル以下の電気自動車にはこれまでの2倍となる約7,000ドルの補助金を提供し、フランスでは50,000ドルまでの電気自動車を購入する個人消費者に対し、約8,000ドルの補助金を与えている。中国市場とは異なり、欧州で販売が増えている要因は、気候変動に対しての目標に対応するためであり、消費者は電気自動車を環境にやさしい車両として見ている。このことは中国人がガジェットやハイテク商品を手に入れる機会として捉えている様子とは大きく異なる。

持続可能な社会を実現する目標と、政府による補助金により、欧州での電気自動車の普及率はこれからも大きく増えていくだろうと考えられる。

 

05 市場予測:補助金が無くなった後の中国では何が起きるか

世界最大の電気自動車市場において、これからの成長の軌道がどうなるかは不透明なままだ。最近鈍化したことから分かるように、政府による補助金が無くなることで、成長率はこれまでと同じようには続かないだろう。

元来、中国の計画は2020年の終わりまでに補助金を打ち切ることだった。しかしながら、今年の3月に新型コロナウイルスによる景気の停滞が起きたため、延長することが決定された。改定により、2022年まで新車の電気自動車を購入する顧客が補助金を受けることができ、2年間は購入時の税金も免除される。

2021年に補助金は20%削減され、2022年には30%削減される。

しかしながら、世界の舞台で中国が自動車分野で頂点に立つという野望は変わらない。補助金を打ち切ることによって、売り上げが落ちること以外に、主要なセクターの刷新という、もう一つの重要な進展をもたらした。新型コロナウイルス以前には400以上もの中国企業が国内の電気自動車セクターで運営していたが、補助金に頼っていた企業の中には破綻したところもあった。この難局を乗り越えた企業は、現在より強い地位にある。

これは、中国政府が自国で育った自動車会社を盤石にし、欧米の自動車会社に対抗できるだけの電気自動車を製造するという大きな野望を物語っている。

例として、テスラのような海外の競合を中国市場に入れる決断をしたことは戦略的だった。テスラ モデル3は現在中国で最も売れているピュアEVBEV)となっている。

上海に工場を建設することで、中国の銀行から優先的融資をたっぷりと受けることができ、上海市政府からも承認を得たことで同社は大きな恩恵を受けている。テスラの揺るぎない人気は、比較的短期間に中国でもますます高まっているように見える。

しかし、テスラのサプライチェーンは中国企業に学ぶ機会を与えてくれるという意味で非常に価値のあるものであり、時間をかけてそのサポートを国内企業に移そうと考えている。そして、中国の夢は自国のテスラをつくることだ。

国内市場を超えて、中国は自動車大国になることを目指しているため、長期的には自国の電気自動車を広く普及させることが、その目的を叶えるために重要だと考えている。

 

06 欧州経済はグリーンパワーで立ち直るか

中国と米国の市場は鈍化しており、欧州が次の大きな電気自動車市場となる、あらゆる兆候が見られる。

欧州での電気自動車の販売台数は、20208月までの年度累計台数で前年同期比50%増を超えるほど急上昇している。

むしろ驚くべきことに、新型コロナウイルスによって欧州での電気自動車の成長が妨げられることもなかった。事実、欧州ではこの危機を元にグリーン・リカバリーを生み出そうとしている。いくつかの政府がコロナウイルス対策の景気刺激策として追加の補助金を打ち出した。

欧州市場が本格的な勢いを増し始めていることはほとんど疑いの余地がない。そして、欧州は政府の介入を強化することで成長を加速させる中国式のやり方を見習っているように見える。そして、二酸化酸素排出量の目標値も達成したい算段だ。

ノルウェーは、1990年代から長く続いている電動化への努力のおかげもあり、欧州で先頭を走っている。2020年までに電動車両の数を100,000台にする当初の計画では、2018年にこの数値を超えた。

ノルウェーは昨年ピュアEVBEV)の販売台数が最も多く、2019年には市場全体の42%に当たる60,400台を販売した。2020年の8月までの年度累計台数は、38,600台だった。

しかし、多くの欧州諸国は大きな野望とさらなる報奨金政策によって、ノルウェーに追いつこうとしている。例えば、ドイツは2030年までに、国内に1,000万台の電動車を販売し、充電ステーションを100万カ所つくる野望がある。今年の夏には、新型コロナウイルス対策の景気刺激策として1,300億ユーロの予算が計上されたが、その中に電気自動車の販売を増やすための予算も多分に含まれている。

フランスでは、マクロン大統領が新型コロナウイルス対策として自動車分野に80億ユーロを計上し、州による電動車への補助金が6,000ユーロから7,000ユーロへ増額された。

こうした刺激策があるにも関わらず、欧州では、規制よりも経済性を重視した販売がされている。総所有コストの平準化が達成されて初めて、電気自動車は新車販売の中で大きなシェアを得ることになるだろう。

07 中国の自動車会社は今後どうなるか

補助金が終わった後、欧州の電気自動車市場は加速を続け、中国と張り合うことができるか?それとも、中国は欧州自動車市場への拡大にも成功することができるか?

 

JATOの選んだ2021年に注目すべき中国企業6社

MG

著名な英国のブランドは2005年に中国の上海汽車集団(SAIC Motor)に買収され、それ以降電気自動車市場に進出し、著しい成功を収めている。特にスモールSUVであるZSのピュアEVBEV)モデルは、20199月に発売されて以来、多くの欧州の国で電気自動車販売ランキングにおいてトップ10に入っている。初めに発売されたのはオランダと英国だが、近い将来ノルウェー、フランス、ベルギー、イタリア、オーストリアでも売られるようになる。事実、ZSは英国の電気自動車市場の6%を占めるほど傑出しており、販売台数ランキングでも、テスラ モデル3、ニッサン リーフ、ジャガー I-PACEに次ぐ4位となっているのだ。

中国企業の傘下となってから14年間、MGは欧州市場の攻略を目指してきた。昨年発表されたZS EVは、競争力の高い航続距離と価格を併せ持ち、かつて内燃機関を搭載した車種では叶わなかった、欧州市場での成功の機会を作った。

そして、上海汽車集団(SAIC Motor)だけが欧州市場で存在感を高めている中国企業ではないのだ。

比亜迪 (BYD)

BYD(比亜迪は、中国最大の電気自動車メーカーであり、テスラに次いで世界2番目の規模となっている。

二次電池の世界的な大企業であり、2010年に発売された電気バスは欧州でも強い存在感があった。最近になって、欧州で乗用の電気自動車市場にも参入し始めた。

浙江吉利控股集団(GEELY)

中国企業の野心は、欧州市場向けのモデルを製造するよりもはるか上の次元へ向かった。ここ10年間で、浙江吉利控股集団(Zhejiang Geely Holding Group)は欧州市場へ入り込む近道として、すでに確立されたボルボやロータスといった企業を買収していたが、そこで止まりはしなかった。吉利はオープンソースの電気自動車用アーキテクチャSEASustainable Experience Architecture)を公開し、世界でゼロエミッション車(ZEV)の普及を後押ししていく考えでいる。

革新的なゼロエミッションアーキテクチャを、自社以外の自動車会社やサードパーティーにも利用できるようにすることは、産業にとって大きな進歩である。そして、それは気候変動による問題へ取り組むという共通の関心を反映したものだ。

 

上海蔚来汽車(NIO)

欧州が注目するべきなのは、すでに確立された大きな企業だけではない。競争はありとあらゆる形式で起こり、特に革新精神を持った破壊者から生まれているのだ。

“中国のテスラ”と評されるのは、上海蔚来汽車(NIO)である。巨大インターネット企業から生まれ、中国の新エネルギー車(NEV)スタートアップの模範企業だ。同社の革新的な“Battery as a Service” (BaaS)は大きな注目を集めた。上海蔚来汽車(NIO)は現在中国国内のみで運営しているが、2021年には欧州で車両を販売する予定だ。

現在中国では、ES8、ES6、EC6の3車種を販売しているが、BaaSのおかげでバッテリーを除いた価格で購入できるため、非常に手ごろな価格を実現している。そのため、欧州の消費者にも非常に有利な価格の車両を提供できる可能性が高く、欧州企業にも対抗できるだろう。

愛馳汽車(AIWAYS)

そして、競争は車両価格の話では終わらない。2019年、愛馳汽車(Aiways)はU5というモデルで、中国からドイツまで53日かけ、およそ15,022kmの走行に成功した。このことが欧州で紹介されると、同社製品の品質の高さを証明することができ、中国企業の電気自動車市場における特有の能力を見せることができた。それから、愛馳汽車(Aiways)はフランスで販売を開始し、オンライン販売でパートナー企業との連携に力を入れ、ドイツ企業のEuronicsと提携した。

意外なことではないが、中国企業はチャレンジャーブランドを手助けすることで入り込もうとする方法を含め、欧州自動車市場へ参入するために複数のルートを探しているのだ。

駱駝集団(CAMEL GROUP)

クロアチアの自動車会社であるリマック・アウトモビリ(Rimac Automobili)は、“欧州のテスラ”とも言われ、まだ製造には入っていないが1914馬力のC_Twoクーペのような革新的なモデルで知られている。

ブガッティブランドの買収など、同社の周りには話題が多いが、巨額の資金も確保している。出資企業で2番目の株主は、中国のバッテリー製造会社である駱駝集団(Camel Group)である。

 

08 結論

10年弱で世界最大の電気自動車市場になった中国の歩みは、速く普及させるためには政府による介入が必要であることのよい見本となった。

国の政策と支援は、電気自動車業界が市場を切り開くためには必須である。特に、消費者信頼感はインフラ整備と競争的な価格設定に頼っているため、国家による介入は電気自動車市場の成功の方程式には不可欠なのだ。

中国以外の国に目を向けた場合にも明白だ。ノルウェーのように電気自動車を普及させるために、1990年代から協調努力を続けてきた国は大きな成果を上げている。対照的に、北米のように軽い規制を行ってきた国では、市場が盛り上がっていない。

中国は自動車産業の発展と改革のために注力しており、2035年までに世界市場の50%を電気自動車にするというボアオ宣言の目標を目指している。

欧州では次の電気自動車ブームが来ると言われており、世界の電気自動車をめぐる覇権争いはますます面白くなるだろう。

そして大きな困難にもかかわらず、感染拡大は、政府による補助金と介入を強めることで、欧州での電気自動車の市場拡大を加速させたようだ。

豊富な刺激策と、すでに確立されたブランドが排出規制を達成する目的以上の電気自動車を販売することに乗り気でなかったことが合わさり、中国企業が一段と力を増す明確な機会となった。

中国の自動車会社がこの課題に取り組んできたことは明白だ。例えば、歴史あるブランドが欧州の消費者に大きな影響力を持っていることを理解し、中国企業はその中に入り込む方策を探していた。中国ブランドをそのまま売ろうとするのでなく、欧米の自動車会社の株を買い占めたり、率直に買収するなどして。

おそらく中国企業が欧州市場で強固な基盤を固めるまでにはまだ時間がかかるだろうが、自国の人材を強化することや、欧米のメーカーと競合できる電気自動車をつくろうとする、長期的野心からそれることはないだろう。中国企業が自国で成功するに至った法則を挙げると、以下の様になる:

 

  • 廉価な電気自動車に力をいれる
  • 消費者の選ぶことができるモデルレンジを広くする(SUVも含める)
  • 欧米企業の車種よりも長い航続距離を実現する
  • テクノロジー好きのための車両
  • 消費者のデータを分析することから生まれるデザイン
  • 若い消費者へ強く訴求する

 

これらの項目が欧州市場に戦略的に適用された場合、多くの消費者に魅力を訴求できないとは考えにくい。そのためおそらくは、電気自動車の世界市場拡大という点で見れば、中国企業が成功するかどうかと言うよりも、欧州市場に無事参入するまでには後どれくらい時間がかかるかが問題なのだろう。

Download file: JATO RACE FOR EV WHITE PAPER 2020-J.pdf